大阪地方裁判所 昭和36年(ワ)3091号 判決 1963年10月16日
原告 関西興業株式会社
右代表者代表取締役 中村勇
右訴訟代理人弁護士 下山昊
右訴訟復代理人弁護士 下山量平
被告 中谷幹枝
外二名
右三名訴訟代理人弁護士 川見公直
右同 山口幾次郎
右訴訟復代理人弁護士 浜田行正
主文
一、被告中谷幹枝、被告高橋節子は連帯して原告に対し金七、〇四四、二九八円を支払え。
二、原告の右被告両名に対するその余の請求及び被告枝常寛に対する請求はすべてこれを棄却する。
三、訴訟費用中、原告と被告中谷幹枝、被告高橋節子との間に生じたものはこれを一〇分し、その一を原告、その余を右被告両名の負担とし、原告と被告枝常寛との間に生じたものは全部原告の負担とする。
四、この判決は原告において被告中谷幹枝、被告高橋節子に対し各金二、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは該被告に対し原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
≪省略≫
理由
第一、原告が昭和三四年一月二〇日、被告中谷に対し原告所有の本件家屋を賃料一ヶ月金一五〇、〇〇〇円、毎月二〇日翌月分前払、期間三年の約で賃貸したことは当事者間に争なく成立に争ない甲第一号証によると同日被告高橋は右賃料債務につき連帯保証したことが認められこれに反する証拠はない。
第二、被告中谷は本件家屋に居住し、バー営業をしていたが昭和三四年二月分から昭和三六年四月分までの間及び同年六、七月分二九ヶ月分の賃料四、三五〇、〇〇〇円を支払わないので原告は昭和三六年六月二八日被告中谷に到達した書面で右金員から原告が同被告に対し負担する別口債務を差引いた残金三、一四四、二九八円を同月三〇日までに支払うよう催告したが応じないので翌七月七日同被告に到達した書面で賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争がない。
第三、そこで右解除の意思表示の効力につき考えると、≪証拠省略≫を綜合すると、原告は昭和三三年一二月頃被告中谷とバー営業を目的とする株式会社クラブ北を設立し共同経営する計画であつたが資金難のため挫折し、一応被告中谷単独でバー営業をすることになり、同被告に対し本件家屋を賃貸した(この経緯は争ない)他物心両面の協力を惜まず本件家屋をバー営業向に改造する改造費も出資して援助する旨約束したが原告は約に反し被告中谷がなした改造工事費(被告中谷は約二、〇〇〇、〇〇〇円と主張するがこれを認める確証はない)を支払わず且客足も次第に減つたため被告中谷は資金繰に窮し昭和三六年六月一九日頃原告に対し右造作費と延滞賃料との相殺及び同月分以降の賃料を一ヶ月金五〇、〇〇〇円に減額されたい旨申入れ交渉中であつたことが認められ、右認定に反する証人土居寿男(一部)、同沖信行の証言は前記証拠に比し措信し難く、他にこれに反する証拠はない。右認定のような原告と被告中谷間の従前からの物心両面に亘る緊密な協力関係にかんがみるときは同年六月一九日頃被告中谷から造作費と延滞賃料との相殺等の申入れを受けた原告としては造作費の金額を確認して右相殺に応ずる等十分な誠意をもつてこれに対応すべきことが信義則上当然期待し要請されるのに拘らず却つて造作費の支払は差し置き被告中谷に対し同月二八日到達の書面で延滞賃料三、一四四、二九八円を同月三〇日まで支払うよう催告し続いて矢継早に翌七月七日到達の書面で解除の意思表示に及んだのであつて右催告期間の短に失することは別とするも右催告解除は双方の協力関係を基調とする信義則に反して許されないものと解すべく原告の解除の意思表示は無効と謂わなければならない。
第四、さうすると原告の被告中谷に対する賃貸借契約解除を前提とする本件家屋の明渡請求は失当として棄却を免れない。
第五、次に原告は被告高橋、被告枝常に対し本件家屋の明渡並に損害金の支払を請求するが証人土居寿男(一部)同沖信行の各証言によると、被告中谷が本件家屋の賃借人且バー営業の主宰者であり、被告枝常は本件家屋賃借当初から被告中谷の内縁の夫として被告中谷の占有の範囲内において本件家屋に居住しているに過ぎず又被告高橋は被告中谷の使用人として他のアパートから本件家屋に通勤しているに過ぎないことが認められ、右認定に反する証人土居寿男の証言部分は措信し難く他に右認定に反する証拠はないから右被告等は本件家屋を独立して占有しているものとは解し難く、右被告等に対する本件家屋の明渡並に損害金の請求は失当と謂わなければならない。
第六、前記認定の第一、第二事実によると被告中谷、被告高橋は連帯して原告に対し(前記相殺及び新家賃額の合意が認められぬ以上)昭和三六年七月分までの延滞賃料三、一四四、二九八円及び同年八月分から既に支払期の到来した昭和三八年九月分まで二六ヶ月分の一ヶ月金一五、〇〇〇円の割合による延滞賃料三、九〇〇、〇〇〇円(本件の如く同年七月分までの賃料と翌八月分から家屋明渡済までの賃料相当損害金が併せ請求されている場合は後者には少くとも既に支払期の到来した賃料請求が予備的に併合されていると解すべきである)合計七、〇四四、二九八円を支払う義務があるものと謂わなければならない。
第七、さうすると本訴請求は被告中谷、被告高橋に対し連帯して延滞賃料七、〇四四、二九八円の支払を求める限度において正当であるからこれを認容し、右被告等に対するその余の請求及び被告枝常に対する請求は孰れも失当であるからすべてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 幸野国夫)